2020年秋学期 - 地域と社会(アジア・大洋州) / REGION AND SOCIETY (ASIA-PACIFIC)
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C1101 地域と社会(アジア・大洋州) REGION AND SOCIETY (ASIA-PACIFIC) |
先端導入科目-総合政策-国際戦略 Frontier Courses (Intermediate) - Policy Management - International Strategy 2 単位 |
| 実施形態 | 完全オンライン |
| 開催日程 | 秋学期 火曜日1時限 |
| 担当教員 | 加茂 具樹(カモ トモキ) |
| 関連科目 |
前提科目(関連): C1087,C1140,C1089 |
| 開講場所 | SFC |
| 授業形態 | 講義 |
| 履修者制限 |
履修人数を制限する Only the selected students can take this course. |
| 履修条件 |
国際政治、日本外交、なによりも現代中国政治と外交に関心があること。 本講義の担当者は2020年秋学期に「外交と戦略」を開講しています。「外交と戦略」は中国外交および東アジアの国際政治を学びます。本講義は中国の対外行動をかたちづくる中国政治を学習します。この2つの科目を履修することを推奨します。 |
| 使用言語 | 日本語 |
| 連絡先 | tomoki@sfc.keio.ac.jp |
| 授業ホームページ | https://www.kamotomoki.com |
| 同一科目 | |
| 学生が利用する予定機材/ソフト等 | |
| 設置学部・研究科 | 総合政策・環境情報学部 |
| 大学院プロジェクト名 | |
| 大学院プロジェクトサブメンバー | |
| ゲストスピーカーの人数 | 1 |
| 履修選抜・課題タイプ=テキスト登録可 | true |
| 履修選抜・選抜課題タイプ=ファイル登録可 | false |
| GIGAサティフィケート対象 | |
| 最終更新日 | 2020/07/31 14:28:14 |
科目概要
本講義は政治権力を中心として見た現代中国政治史を論じます。中国という国をかたちづくっている中国共産党による一党支配という政治権力が、どの様に形成され、どの様な発展の経路をたどってきたのか、その特質を明らかにします。そして共産党による一党体制が持続することができた要因を考えます。中国が隣国であることは、日本という国をかたちづくる重要な要素の一つといえます。本講義は、中国政治外交への理解を深める機会であるとともに、国力を増大化させて「大国」意識を強めている中国に対して如何に向き合うのか、という日本外交と東アジア国際政治を考えるための基礎を学ぶ機会ともいえます。
This class will focus on contemporary Chinese politics/foreing policy and the influence of China’s conduct on the international politics.
授業シラバス
主題と目標/授業の手法など
現代中国政治史とは、現代中国の政治権力に関する歴史的分析であり、政治権力を中心として見た現代中国史です。この講義の目的は、中国という国のかたちの軌跡を理解することです。「国のかたち」とは国家の政治権力の姿であり、「軌跡」とは政治権力の形成と発展の経路を指します。本講義は、中国共産党による一党支配という政治権力の形成と、一党支配をかたちづくる制度の発展と持続性(経路依存的な発展)をたどり、その特質を明らかにします。そして共産党による一党体制という権威主義国家中国が、これまで政治体制を維持することができた要因を考えます。
本講義は、次に示す3つの国家の性格を踏まえて、現代中国政治を論じることになります。第一は、今日、国家の政治権力は社会のすみずみにまで浸透し、その構成員である国民に対して圧倒的な力を持っているということです。領導者である中国共産党は国家権力を独占し、様々な手段を使って社会への浸透を図り、その構成員である国民に対して圧倒的な力を発揮して、国家と社会の発展を先導してきました。第二に、国民に対して圧倒的な力を持っているとはいえ、国家の政治権力は広範な国民の支持を得なくては存在し得ないということです。国家の発展のために、国民の参加という政治原理を否定する国家は存在しません。今日の中国も、国民の政治参加を国家の政治原理として掲げ、国民の支持の下に国家権力の独占を正統化させています。そして第三は、国家は他国に影響をあたえ、また他国の影響を受けている、ということです。今日、自国のことを自国だけで全てを決定することは出来ません。いかなる国の内政も国際関係と切り離して考えることは出来ません。
本講義は、中国の人々は中国共産党による一党支配体制をなぜ選択したのか、一党支配体制はなぜ持続しているのか、中国の対外行動はなぜ「協調」と「強制」が並存しているのか、中国はこれからの国際秩序をどの様に描いているのか、という問を論じながら、いまの中国の国内政治と対外行動に対する理解を深めてゆきます。中国が隣国であることは、日本という国をかたちづくる重要な要素の一つといえます。いま一つの重要な要素は米国でしょう。近年、中国は国力を増大化させて「大国」意識を強めています。日本の伝統的な対中外交は、中国への経済援助をつうじて既存の国際秩序の中に迎え入れ、大国へと発展の道を歩む中国からの脅威を軽減することにありました。こうしたアプローチは今後も有効なのでしょうか。本講義をつうじて履修者の皆さんには、日本は中国と如何に向き合えばよいのかという問題を考えて欲しいと思います。
This class will focus on contemporary Chinese politics/foreing policy and the influence of China’s conduct on the international politics.
教材・参考文献
教科書は特に指定しません。しかし、以下の書籍を手元に置いておくと理解は深まるでしょう。
- 毛里和子(2012)『現代中国政治 グローバル・パワーの肖像 第3版』名古屋大学出版会。
- 毛里和子(2018)『現代中国外交』岩波書店。
- David. S.G. Goodman(2015), Handbook of the Politics of China,UK: Edward Elgar Publishing
この他、以下の書籍も案内しておきます。
- 小島朋之(1999)『中国現代史:建国50年、検証と展望』中公新書。
- 天児慧(2013)『中華人民共和国史 新版』岩波新書。
- 高原明生・前田宏子(2014)『開発主義の時代へ 1972-2014』岩波新書。
- 加茂具樹(2017)『「大国」としての中国』一藝社。
提出課題・試験・成績評価の方法など
評価は、講義への貢献度、発表、課題提出などによって判断します。
履修上の注意
授業計画
第1回 国家権力としての中国共産党
一党支配体制が続く中国にあって、強大な権力を持って国家を動かしているのが中国共産党です。一党支配の動力をかたちづくっている政治制度を理解することによって、中国共産党が如何に国家権力を独占し、如何に社会への浸透を図り、その構成員である国民に対して如何に力を発揮して国家と社会の発展を先導してきたのか、を理解します。支配(統合)の道具(ツール)としての中国共産党です。
第2回 分散的な権威主義国家:集権の遠心力
一党支配体制が続く中国は、強固な集権的な国家であると理解されています。しかし中国政治には、そうした集権性とは正反対の政治力学が働いています。これをfrgmented authoritarianism(分散的な権威主義)といいます。中国の政治過程の特徴をかたちづくっている「政治権力の分散性」についての理解を深めます。
第3回 豊かな権威主義国家:経済発展は民主化をもたらすのか
1980年代に改革開放の道を選択して以来、中国共産党は経済発展によって生じた多元的な社会と一元的な政治とのあいだの矛盾に囚われているといえます。1980年代末から1990年代初のアジアや東欧、旧ソ連の民主化運動に代表される「第3の波」は中国の民主化を予感させました。権威主義体制は豊かになる(経済発展する)と民主化することから、「豊かな権威主義体制は存在し得ない」という考え方があります。しかし、現実の政治は異なっています。それはなぜかを考えます。
第4回 なぜ中国共産党なのか:一党支配はどこから来たのか
「銃口から政権は生まれる」。毛沢東が1927年に話した有名な言葉です。まさに中国共産党が1949年に中華人民共和国を設立するまでの歴史は、中国共産党の政治権力と軍事力が一体であることを物語っています。しかし、近代国家としての正統性が軍事力のみで保障されることは有り得ません。どの様にして共産党は権力を奪取したのか。中国共産党の支配の正統性はどこから来たのか。その歴史的歩みを論じます。
横山宏章『中華民国史 専制と民主の相克』三一書房、1996年。
深町英夫『中国議会100年史 誰が誰を代表してきたのか』東京大学出版会、2015年。
第5回 新民主主義から社会主義へ:国家の発展戦略の転換
中華人民共和国が成立した1949年10月の中国は社会主義国家ではありませんでした。当時の中国は、新民主主義国家といわれ、今日のような一党支配体制は制度的には確立していませんでした。中国が今日のような国家体制となるのは、1954年に中華人民共和国憲法が制定され、1956年の第8回中国共産党全国代表大会を経て、共産党が独裁的権力を掌握してからのことです。中国共産党の独裁的な政治権力の形成過程に対する理解は、中国政治を理解するための基礎といえます。
第6回 個人独裁の道:反右派闘争、大躍進、文化大革命
1950年代後半から、中国の政治は毛沢東個人独裁への道を歩んでゆきます。もちろん、その道は運命づけられた「一直線」の路ではなく、試行錯誤的な政策決定を積み重ねた結果です。なぜ中国政治は毛沢東による個人独裁の道を歩んだのか。毛沢東の戦略観を踏まえて論じてゆきます。
第7回 なぜ改革開放を選択したのか
毛沢東の死後、中国共産党は従来の政策を大きく転換し、いわゆる「改革開放」といわれる政治路線を歩みはじめます。毛沢東時代のイデオロギーと階級闘争重視から経済建設を重視という政策の転換を理解します。共産党は「改革開放」をなぜ選択したのか。どの様に選択したのか。今日の中国政治の「動力」を捉えます。
第8回 自強という見果てぬ夢:中国のナショナリズム
21世紀に入り中国社会の愛国的な行動が目につきます。この愛国的な行動の起源については、中国共産党による愛国主義教育の結果であるという見方と、中国社会が一貫して抱き続ける中華思想にあるという見方があります。中国政治の核心にある中国のナショナリズムの形成と構造を理解します。
第9回 摸着石头过河:一党支配のメカニズム
中国共産党は、1980年代に改革開放の道を選択して以来、経済発展によって多元化する社会と一元的な政治のあいだの矛盾に囚われています。この矛盾をどの様に克服し、支配を持続させてきたのか。この問いに対する仮説的回答を示し、一党支配を維持させてきた「統治の技術」を理解します。
第10回 未完の国家統一:香港と台湾
中国共産党は、1949年の中華人民共和国建国後、台湾、香港、澳門という未完の国家統一という問題を克服するための政策方針として「一国二制度」を発表しました。この政策方針は、今日も一貫して掲げられています。北京が提起し、運用してきた「一国二制度」とこれに対する香港、澳門、台湾の反応を論じます。2020年に制定された「香港国家安全維持条例」についても論じます。
第11回 友か敵か:日本と中国
日本の伝統的な対中政策は、日米同盟を背景として中国とのパワーバランスを維持しつつ、中国との間に外交目標や問題関心、問題解決のための実際の行動に相違がある場合には、対話と交流をつうじて違いを調整して、現状の維持を目指してきました。対話と交流を通じて安定を維持するという日本の対中外交は終わりを告げようとしているのでしょうか。日中関係を「中国国内政治」の文脈から論じます。
国分良成『中国政治からみた日中関係』岩波書店、2017年。
第12回 中国共産党はどこへゆくのか:脆弱性と強靱性
近代国家の政治権力は広範な国民の支持を得なくては存在し得ません。今日の中国も、国民の政治参加を国家の政治原理として掲げ、国民の支持の下に国家権力の独占を正統化させています。権威主義体制と政治参加はどの様に共存しているのでしょうか。中国共産党による一党支配の正統性の源泉を学びます。この構図を理解することをつうじて、中国共産党による一党支配の行方を展望します。
第13回 総括:学期末課題提出に備えて
第14回 総括:学期末課題提出に備えて
第15回 総括:学期末課題の提出
15回目に相当するその他の授業計画
課題・レポート